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2017年3月 3日 (金)

交通事故の被害者の破産(2)

【問題】
 
破産手続開始決定前に交通事故の被害に遭った破産者の加害者に対する損害賠償請求権のうち、以下の損害費目は、破産財団に属するか。
 
1 慰謝料
 
2 後遺障害逸失利益
 
3 介護費用
 
【解答と解説】
 
1  慰謝料
 
いわゆる行使上の一身専属権であるから、原則として、破産財団に属しない(自由財産と認められる)。
 
もっとも、①加害者が被害者に対し一定額の慰謝料を支払うことを内容とする合意が成立しもしくは支払いを命ずる債務名義が成立したなど、具体的な金額の慰謝料請求権が当事者間において客観的に確定したときや、②被害者が死亡したときには、慰謝料請求権は、行使上の一身専属性を失い、破産財団に属する(自由財産と認められない)のではないかが問題となっており、積極・消極の両説が主張されている。
 
積極説(①②の場合には破産財団に属するとする説)は、慰謝料請求権は行使上の一身専属権であることを前提としたうえで、①加害者が被害者に対し一定額の慰謝料を支払うことを内容とする合意が成立しもしくは支払いを命ずる債務名義が成立したなど、具体的な金額の慰謝料請求権が当事者間において客観的に確定したときや、②被害者が死亡したときには、行使上の一身専属性を失うとした最高裁判例(最一小判昭58.10.6民集37巻8号1041頁)を根拠とする。
 
消極説(①②の場合にも破産財団に属しないとする説)は、(1)積極説によれば、破産者が提訴を控えたり訴訟の進行を遅らせたりしかねないし、破産管財人としても容易に破産手続を終結することができなくなる事態が生じうるので、被害者の早期救済や破産手続の早期終結という目的に逆行すること、(2)慰謝料は、被害者の精神的損害を填補するものであるから、一般債権者の引き当てになる一般財産とは性質の異なるものであること、を理由とする。
 
2 後遺障害逸失利益
 
後遺障害逸失利益は、明文上差押禁止財産とされておらず、また、一身専属性も認められていないので、破産財団に属すると考えられている。
 
破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属するので(破産法34条2項)、後遺障害逸失利益が将来発生するものと認められる収入の減少であることも、破産財団性を否定する理由にはならない。
 
もっとも、後遺障害逸失利益の賠償請求権が破産財団に属するとの結論を貫くと、時として、破産者の経済的更生を妨げ、破産者たる被害者にとって酷な結果となることがありうる。一方、破産債権者としても、破産者の将来得ることができる利益のすべてが引き当てになることを予期していないともいえる。
 
そこで、破産実務においては、自由財産の拡張の制度(破産法34条4項)を用いて、後遺症逸失利益の一部を破産財団から外す調整も行われている。
 
3 介護費用
 
以下の理由から、破産財団に属しないとの結論については、争いがない。
 
(1)介護費用は、交通事故の被害者において現実に支出すべき費用であり被害者の生活のために欠くことのできないものである。
 
(2)仮に介護費用の賠償請求権が破産財団に属して破産債権者に配当されるのであれば、破産者である被害者の経済的更生という破産手続の目的は達せられない。
 
(3)介護費用の賠償請求権は一般に高額になることが多いが、破産債権者としても、そのような将来の高額な積極損害を引き当てとすることを予期していなかったはずである。
 
問題は、その理屈であるが、①介護費用の賠償請求権は破産手続開始決定後に取得した財産(新得財産)であるとする説、②義手、義足その他の身体の補足に供するものを差押禁止財産とする民事執行法131条13号を適用する説、③破産法34条4項の自由財産の拡張の制度を用いる説が主張されている。
 
【参考文献】
 
・判例タイムズNO1326-54頁「交通事故の当事者について破産手続開始決定がされた場合の問題点について」(小野瀬昭東京地方裁判所判事)
 
・大コンメンタール破産法(青林書院)135頁
 
・破産実務Q&A200問(全国倒産処理弁護士ネットワーク編)90頁
 

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