カテゴリー「損害賠償」の記事

2017年9月30日 (土)

(株)自研センター

平成29年7月20日から21日にかけて、千葉県市川市の(株)自研センター施設において、交通事故の研修を受けてきました。

(株)自研センターは、損害保険会社の従業員のための研修施設として、複数の保険会社が出資して設立した会社です。近年は、弁護士や裁判官向けにも、研修を行っています。

2日間にわたり、自動車の構造、事故と損傷との整合性、自動車の復元修理技法、修理見積書の読み方などについて講義を受けたり、工場で、バリア衝突実験を見学したり、自動車の復元修理に立ち会ったりしました。

講師の先生方は、難しいことを簡単な言葉で説明してくださり、私たちのどんな質問にも、優しく正面から答えてくださいました。

弁護士になってから、色々な研修に参加しましたが、これほど満足度の高い研修はありませんでした。

税抜6万円という研修費用は決して安くありませんが、これに見合う成果は十分にあったと思います。

交通事故事件を取り扱うすべての法律家に、研修受講をおすすめします。

2017年3月 3日 (金)

交通事故の被害者の破産(3)

【問題】
 
交通事故の被害者の加害者に対する損害賠償請求訴訟が係属中に、被害者について破産手続開始決定がされた。この訴訟手続は、常に中断するか。
 
【解答】
 
原則として、中断する。
 
ただし、訴訟上請求されている損害の費目が金額の未確定な慰謝料のみである場合など、破産者の自由財産に関する訴訟である場合には、中断しないと考えられる。
 
【解説】
 
破産手続開始の決定があったときは、破産者を当事者とする破産財団に関する訴訟手続は、中断する(破産法44条1項)。
しかし、破産者の自由財産に関する訴訟は、「破産財団に関する」訴訟にあたらず、破産者の管理処分権に影響を及ぼさないので、破産手続開始決定があっても中断しないと考えられる。
 

交通事故の被害者の破産(2)

【問題】
 
破産手続開始決定前に交通事故の被害に遭った破産者の加害者に対する損害賠償請求権のうち、以下の損害費目は、破産財団に属するか。
 
1 慰謝料
 
2 後遺障害逸失利益
 
3 介護費用
 
【解答と解説】
 
1  慰謝料
 
いわゆる行使上の一身専属権であるから、原則として、破産財団に属しない(自由財産と認められる)。
 
もっとも、①加害者が被害者に対し一定額の慰謝料を支払うことを内容とする合意が成立しもしくは支払いを命ずる債務名義が成立したなど、具体的な金額の慰謝料請求権が当事者間において客観的に確定したときや、②被害者が死亡したときには、慰謝料請求権は、行使上の一身専属性を失い、破産財団に属する(自由財産と認められない)のではないかが問題となっており、積極・消極の両説が主張されている。
 
積極説(①②の場合には破産財団に属するとする説)は、慰謝料請求権は行使上の一身専属権であることを前提としたうえで、①加害者が被害者に対し一定額の慰謝料を支払うことを内容とする合意が成立しもしくは支払いを命ずる債務名義が成立したなど、具体的な金額の慰謝料請求権が当事者間において客観的に確定したときや、②被害者が死亡したときには、行使上の一身専属性を失うとした最高裁判例(最一小判昭58.10.6民集37巻8号1041頁)を根拠とする。
 
消極説(①②の場合にも破産財団に属しないとする説)は、(1)積極説によれば、破産者が提訴を控えたり訴訟の進行を遅らせたりしかねないし、破産管財人としても容易に破産手続を終結することができなくなる事態が生じうるので、被害者の早期救済や破産手続の早期終結という目的に逆行すること、(2)慰謝料は、被害者の精神的損害を填補するものであるから、一般債権者の引き当てになる一般財産とは性質の異なるものであること、を理由とする。
 
2 後遺障害逸失利益
 
後遺障害逸失利益は、明文上差押禁止財産とされておらず、また、一身専属性も認められていないので、破産財団に属すると考えられている。
 
破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属するので(破産法34条2項)、後遺障害逸失利益が将来発生するものと認められる収入の減少であることも、破産財団性を否定する理由にはならない。
 
もっとも、後遺障害逸失利益の賠償請求権が破産財団に属するとの結論を貫くと、時として、破産者の経済的更生を妨げ、破産者たる被害者にとって酷な結果となることがありうる。一方、破産債権者としても、破産者の将来得ることができる利益のすべてが引き当てになることを予期していないともいえる。
 
そこで、破産実務においては、自由財産の拡張の制度(破産法34条4項)を用いて、後遺症逸失利益の一部を破産財団から外す調整も行われている。
 
3 介護費用
 
以下の理由から、破産財団に属しないとの結論については、争いがない。
 
(1)介護費用は、交通事故の被害者において現実に支出すべき費用であり被害者の生活のために欠くことのできないものである。
 
(2)仮に介護費用の賠償請求権が破産財団に属して破産債権者に配当されるのであれば、破産者である被害者の経済的更生という破産手続の目的は達せられない。
 
(3)介護費用の賠償請求権は一般に高額になることが多いが、破産債権者としても、そのような将来の高額な積極損害を引き当てとすることを予期していなかったはずである。
 
問題は、その理屈であるが、①介護費用の賠償請求権は破産手続開始決定後に取得した財産(新得財産)であるとする説、②義手、義足その他の身体の補足に供するものを差押禁止財産とする民事執行法131条13号を適用する説、③破産法34条4項の自由財産の拡張の制度を用いる説が主張されている。
 
【参考文献】
 
・判例タイムズNO1326-54頁「交通事故の当事者について破産手続開始決定がされた場合の問題点について」(小野瀬昭東京地方裁判所判事)
 
・大コンメンタール破産法(青林書院)135頁
 
・破産実務Q&A200問(全国倒産処理弁護士ネットワーク編)90頁
 

交通事故の被害者の破産(1)

【問題】
 
交通事故の被害に遭った破産者の加害者に対する損害賠償請求権は、破産財団に属するか。
 
(1) 破産手続開始決定後に交通事故の被害に遭った場合
 
(2) 破産手続開始決定前に交通事故の被害に遭った場合
 
 
【解答】
 
(1) 破産財団に属しない。
 
(2) 原則として破産財団に属するが、自由財産と認められる損害費目については、破産財団に属しない。
 
【解説】
 
破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する(破産法78条1項)。
 
つまり、破産財団に属する財産については、破産者からその管理処分権が剥奪され、破産管財人の管理下におかれたうえ、換価され、破産手続費用や破産債権者への配当にあてられる。
 
もっとも、破産法34条1項は、「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする」と規定している。
 
したがって、破産手続開始決定後に、破産者が交通事故の被害に遭い、加害者に対する損害賠償請求権を取得した場合、この損害賠償請求権は、破産財団に属しないことになる。
 
一方、破産手続開始決定時に破産者に帰属する財産は原則として破産財団に属するが、民事執行法等の法律に基づく差押禁止財産やいわゆる一身専属権等権利の性質上差押えの対象とならない財産については、自由財産とされ、破産財団に属しないこととされている(破産法34条3項)。
 
また、裁判所は、破産者の生活の保障を図るため、破産管財人の意見を聴いたうえで、自由財産(破産財団に属しない財産)の範囲を拡張することがある(破産法34条4項5項)。
 
したがって、破産手続開始決定前に、破産者が交通事故の被害に遭い、加害者に対する損害賠償請求権を取得した場合、この損害賠償請求権は、原則として、破産財団に属するが、自由財産と認められる損害費目については、破産財団に属しないことになる。
 
どのような損害費目が自由財産と認められるかについては、次稿で解説する。
 
 

2014年3月30日 (日)

介護事故(4)

■ 短期入所生活介護事業所(ショートステイ)の利用者が、事業所内で転倒し、その際の受傷が原因で死亡した事故につき、施設側に、民法715条1項による損害賠償責任が認められ、過失相殺が認められなかった事例

判決日 平成24年7月11日
裁判所 京都地裁(単独)

1 当事者

原告 事故当時81歳の男性(以下「V」)の遺族
被告 短期入所生活介護事業所を管理運営する社会福祉法人

2 本件事故の概要

 被告の管理運営する短期入所生活介護事業所に入所していたVが、平成○年○月○日午前0時頃、同事業所内で転倒し、その際、頭部を打ち、同日、開頭血腫除去手術を受けたが、その12日後、急性硬膜下血腫により死亡した。

3 主な実質的争点

(1) 予見可能性の有無

○結論:予見可能性あり

○理由:

・Vは、入所時には、介助を受けながらであるが、杖歩行を行っていた。(被告職員は、Vが多少前進する程度の身体能力を有することを認識できた。)

・Vは、ナースコールをすることなく居室から出ることがあり、深夜、廊下を車いすで自操しているのを被告職員に目撃されていた。Vは、○○病院入院中、ベッドから立ち上がるときは看護師を呼ぶように話されていたのに、呼ばずに立ち上がり、転倒していた。以上の各事実を、被告のケアマネージャーも認識していた。

(2) 結果回避可能性及び結果回避義務違反の有無

○結論:結果可否可能性及び結果回避義務違反あり

○理由:

・被告は、Vに対し、移動等をする際にはナースコールをするよう念入りに指示したと主張するが、ナースコールの指示は、その指示に従わないことがあるというVの性向からして不十分である。

・被告は、1時間に1回の巡視を行っていたと主張するが、1時間毎の巡視で転倒の危険のあるVの行動を阻止できるか否かは偶然に左右される。

・被告は、本件事故のような転倒事故を防止するため、遅くても前回事故(※)直後には、ナースコールの指示及び1時間毎の看視のほか、Vがベッドから離れようとしたときにそれを感知して通報する離床センサーを設置し、夜間は、転倒の際の衝撃を緩和する介護用の衝撃吸収マットをベッドから一定範囲に敷き詰めるべきであった。マットのためにかえって不安定な状態となり転倒の危険が高まるのであれば、不安定さの少ない薄型のマットを使用することが考えられる。

※前回事故とは、本件事故の約半月前、Vが居室内において転倒し、右眼横を負傷した事故のことである。

(3) 損害

ア 逸失利益の額

① 取締役報酬

 死亡時から3年に限り逸失利益を認めた。Vが長男一家と同居していたことを考慮し、生活費控除率を50%とした。

② 厚生年金及び厚生年金基金

 Vの死亡時の平均余命8年間分の逸失利益を認めた。生活費控除率を80%とした。

イ 死亡慰謝料の額 2200万円

(4) 過失相殺

○結論:否定

○理由:被告は、Vが○○病院において、指示に従わず、看護師を呼ばずに立ち上がり転倒したことなどを承知の上で本件契約をした以上、被告の職員は、Vが被告職員の指示どおりに行動しないことがあることを前提に、転倒事故等が発生しないよう注意すべき義務を負う。したがって、本件事故の際、Vが被告職員の事前の指示に従っていなかったとしても、想定された事態であり、それによる危険発生防止は、被告の契約上の義務であるから、Vの指示違反は、過失相殺事由にはならない。

2014年1月31日 (金)

介護事故(3)

■ 地域ケアプラザでデイサービスを受けていた利用者が、施設内のトイレで転倒し負傷した事故につき、施設職員に介護義務違反があったとして、施設側の安全配慮義務違反による損害賠償責任が認められたものの、利用者側にも3割の過失が認められた事例

判決日 平成17年3月22日
裁判所 横浜地裁(合議)

1 当事者
原告 事故当時85歳の女性
被告 地域ケアプラザを管理運営する社会福祉法人

2 本件事故の概要
地域ケアプラザでデイサービスを受けていた原告が、同施設のトイレ内で転倒した。

3 主な実質的争点

(1) 被告は原告を歩行介護する義務を負っていたか。

○結論:歩行介護する義務を負っていた。

○理由
:「原告は、従前より足腰の具合が悪く、70歳のころに転倒して左大腿骨頸部を骨折したことがあり、本件施設内においても平成13年2月12日に転倒したことがあること、同年12月ないし平成14年1月ころにおける原告の下肢の状態は、両下肢の筋力低下、両下肢の麻痺、両膝痛、両膝の屈曲制限、左股関節、両膝関節及び足関節の拘縮、下腿部の強度の浮腫、足部のしびれ感、両足につき内反転気味の変形傾向などがあり、歩行時も膝がつっぱった姿勢で足をひきずるような歩き方で不安定であり、何かにつかまらなければ歩行ができなかったこと、原告の主治医においても原告の介護にあたっては歩行時の転倒に注意すべきことを強く警告していることからすると、本件事故当時において、原告は、杖をついての歩行が可能であったとはいえ、歩行時に転倒する可能性が極めて高い状態であり、また、原告のそのような状態について本件施設の職員は認識しており又は認識し得べきであったといえるから、被告は通所介護契約上の安全配慮義務として、送迎時や原告が本件施設内にいる間、原告が転倒することを防止するため、原告の歩行時において、安全の確保がされている場合等特段の事情がない限り常に歩行介護をする義務を負っていたものというべきである。」


(2) 被告に(1)の義務違反があったか。

○結論:義務違反があった。

○理由
:「本件トイレは、入口から便器まで1.8メートルの距離があり、横幅も1.6メートルと広く、しかも、入口から便器までの壁には手すりがないのであるから、原告が本件トイレの入口から便器まで杖を使って歩行する場合、転倒する危険があることは十分予想し得るところであり、また、転倒した場合には原告の年齢や健康状態から大きな結果が生じることも予想し得る。そうであれば、職員としては、原告が拒絶したからといって直ちに原告を1人で歩かせるのではなく、原告を説得して、原告が便器まで歩くのを介護する義務があったというべきであり、これをすることなく原告を1人で歩かせたことについては、安全配慮義務違反があったといわざるを得ない。」

「確かに、要介護者に対して介護義務を負う者であっても、意思能力に問題のない要介護者が介護拒絶の意思を示した場合、介護義務を免れる事態が考えられないではない。しかし、そのような介護拒絶の意思が示された場合であっても、介護の専門知識を有すべき介護義務者においては、要介護者に対し、介護を受けない場合の危険性とその危険を回避するための介護の必要性とを専門的見地から意を尽くして説明し、介護を受けるよう説得すべきであり、それでもな要介護者が真摯な介護拒絶の態度を示したというような場合でなければ、介護義務を免れることにはならないというべきである。」


(3) 過失相殺の有無

○結論:原告に過失あり。原告の過失割合は3割。

○理由
:「本件事故当時、原告は、本件トイレを自ら選択し、同トイレ内部での歩行介護について、本件施設職員に対して「自分一人で大丈夫だから」と言って、内側より自ら本件トイレの戸を閉め、単独で便器に向かって歩き、誤って転倒したのであるから、原告においても、本件事故発生について過失があるものというべきで、上記のような転倒に至る経緯や原告が高齢者である一方、被告は介護サービスを業として専門的に提供する社会福祉法人であることも斟酌すると、原告の過失割合は3割というべきである。」



介護事故(2)

実は、今週、インフルエンザにかかったため、休養しています。もう熱は下がっているのですが、感染力が下がるまで外出できないので、本日まで、自宅待機です。

介護事故の裁判例を紹介します。

■介護老人保健施設に入所中の女性が自室のポータブルトイレ中の排泄物を捨てるため汚物処理場に向かった際、同処理場入り口の仕切りに足を引っかけて転倒、負傷した事故につき、施設側の債務不履行責任及び工作物責任(民法717条)が認められた事例

判決日 平成15年6月3日
裁判所 福島地裁白川支部(単独)

1 当事者
原告 事故当時95歳の女性入居者
被告 介護老人保健施設を経営する社会福祉法人

2 本件事故の概要
原告が、本件施設2階ナースセンター裏のトイレに併設されている汚物処理場において、その出入口にあった高さ87ミリ幅95ミリのコンクリート製凸状仕切りに足を引っかけて転倒した。

3 主な実質的争点
(1) 被告にポータブルトイレの清掃を定時に行うべき契約上の義務があったか。

○結論 契約上の義務あり

(2) 被告に(1)の義務違反があったか。

○結論 義務違反あり

(3) (2)の義務違反と本件事故との間に相当因果関係があるか。

○結論 相当因果関係あり

○理由
:「居室内に置かれたポータブルトイレの中身が廃棄・清掃されないままであれば、不自由な体であれ、老人がこれをトイレに運んで処理・清掃したいと考えるのは当然であるから、・・・相当因果関係が認められる。この点、被告は、ポータブルトイレの清掃がなされていなかったとしても、自らポータブルトイレの排泄物容器を処理しようとする必要性はなく、ナースコールで介護要員に連絡して処理をしてもらうことができたはずであると主張するが、前記認定のようにポータブルトイレの清掃に関する介護マニュアルの定めが遵守されていなかった本件施設の現状においては、原告ら入居者がポータブルトイレの清掃を頼んだ場合に、本件施設職員が、直ちにかつ快く、その求めに応じて処理していたかどうかは、不明であるといわなければならない。」

(4) 本件仕切りが「土地の工作物の設置・保存の瑕疵」(民法717条)に該当するか。

○結論:該当する。

○理由
:「本件施設は、身体機能の劣った状態にある要介護老人の入所施設であるから、その特質上、入所者の移動ないし施設利用等に際して、身体上の危険が生じないような建物構造・設備構造が特に求められているというべきである。しかるに、現に入所者が出入りすることがある本件処理場の出入口に本件仕切りが存在するところ、その構造は、下肢の機能の低下している要介護老人の出入りに際して転倒等の危険を生じさせる形状の設備であるといわなければならない。」



2014年1月30日 (木)

介護事故(1)

昨年の夏休み、介護事故の裁判例を集めて、分析・研究しました。

時間のあるときに、少しずつ、裁判例を紹介します。

■グループホームにおける入居者の2度の転倒事故について、施設側の損害賠償責任(契約責任)が認められ、過失相殺及び被害者側の素因による減額が認められなかった事例

判決日 平成21年12月17日
裁判所 神戸地裁 伊丹支部(単独)

1 当事者
  原告  本件各事故当時89歳の入居者(性別不明)
  被告  グループホームの運営会社

2 事故の概要
  (1) 第1事故 居室内で転倒
  (2) 第2事故 第1事故の約3月半後に居室内で転倒

3 主な実質的争点

(1) 被告に過失があったか

○結論:過失あり

○過失の評価障害事実

:被告には、人的物的(設備)に制約があり、被告は、原告側に対し、被告の提供できる人的物的条件を入居契約時に重要事項説明書で伝えていた。
・被告は、第1事故の後には、原告の就寝後に被告職員によるこまめな巡視を実施したり、原告居室内のタンスの配置換えにより原告の転倒を防止する配慮をするなど、事故防止の対策をある程度とっていた。

○過失の評価根拠事実

:原告は、第1事故前の約3ヶ月前に、本件施設内で、ベッドから落下する事故に遭っていた。
・その後、被告は、原告の成年後見人から具体的な危険性を指摘した要望を受けていたが、第1事故発生までの間、何らかの対策をとった形跡がない。
・第1事故後は、ある程度の対策をとったものの、それ以上の対策、例えば、被告職員が把握していたカーテンの開閉などの原告の習慣的な行動は被告職員の巡視や見守りの際にさせたり、原告が1人で歩く際には杖などの補助器具を与えるなどの対策をとったり、そうした対策を検討した形跡はない。

(2) 過失相殺及び被害者側の訴因による減額

○結論:いずれも否定

○理由

:原告は、認知症に罹患しており、成年後見人も選任されていたのだから、精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にあったといえ、通常人と同様に、重過失や過失を問うことはできないというべきである。
・原告と被告は、原告が認知症にあり、要介護状態にあることを前提に、本件契約を締結しており、被告は、原告に対し、本件契約上、対価を得て介護サービスを提供する立場にあるのであるから、契約関係にない事故の場合と同様には、過失相殺の類推や訴因の存在を理由に損害賠償責任を減額するのは相当でない。